2022年度 第5回勉強会報告
着床前/出生前検査、内密出産をめぐる法的・倫理的課題:妊娠葛藤を支える社会をめざして
2022年度 第5回勉強会報告
着床前/出生前検査、内密出産をめぐる法的・倫理的課題:妊娠葛藤を支える社会をめざして
講演概要
演者は2020年秋の総会シンポジウムで「妊婦血液による出生前検査の20年とこれから:ガイドラインが守ったこと、制限したこと」のテーマで話をさせていただいた。当時は、厚労省のワーキンググループがNIPTの調査を終え、専門委員会の検討が始まろうとしていた時期である。その後、厚労省専門委員会は2021年5月に報告書をまとめ、日本医学会内に設置された認証制度運営委員会が2022年2月に指針を公表した。今年1月からサイトで一般向け情報が公開されている。
着床前検査については、日本産科婦人科学会が2022年1月と7月に指針(見解)の改訂をおこなった。それまで1つにまとまっていた指針が、「流産予防」と「重篤な遺伝性疾患」の目的別に3つに分けられている。
出生前検査や着床前検査は、かねてから優生学的運用や差別助長が危惧されてきた。日本産科婦人科学会や日本医学会の指針は、その点、十分配慮されているだろうか。されていないと演者は感じている。それは指針自体がもつ理由に加えて、いまの日本の法制度(堕胎罪と母体保護法のスキーム)が大きく影響していることを、当日、参加者と一緒に考えたい。
刑法堕胎罪は、「妊娠継続しない」という個人の意思を認めていない。母体保護法で違法性が阻却されても指定医師と配偶者が認めなければ中絶医療を受けられない現制度では、「中絶は妊娠した人の健康の問題であり、個人で決めてよいこと」というメッセージは伝わらない。そのため日本では、妊娠葛藤をささえる施策やヘルスケアがためらわれてきた可能性がある。
さらに「性道徳低下の防波堤」という堕胎罪の副次的保護法益は、女性が避妊することにも否定的なまなざしとして影響してきた可能性もある。緊急避妊や中絶で世界標準の運用をしてこなかった(したくてもできなかった)日本では、学業をはじめとするキャリアの中断、自死や孤立出産、生後0日児遺棄などが起きてきた。
2022年9月、法務省と厚労省は、先行する事実に押されるかたちで「内密出産の取扱い」を公表した。「妊婦が身元情報を医療機関の一部の人にのみに明らかにして出産したとき」の診療録や戸籍の作成方法などの実務的手順と法解釈が記されている。しかし、こどもの出自を知る権利など大きな課題も残っている。
名前を明かさず出産したいと思っている人に、子どものために名前を明かすよう、分娩前後に何度も“詰めよる”制度設計でなく、着床前・出生前検査も含めて妊娠葛藤をかかえる人のケアとカウンセリングを、妊娠前から妊娠中・中絶や出産後まで充実させ、その一環として内密出産にいたる女性をケアする必要があるのではないか。「産まない」「産めない」人に寄り添わない社会で、「産みたい」「産む」人だけを支援しても、選択肢という名の“圧力”を増やすだけになるように思う。
勉強会報告
参加した皆様のご感想
- 多面的に学ぶことができました。産業医からの視点は女性の健康を考える上で不可欠な視点だと思っていましたので、有意義な機会になりました。
- 女性がおかれている立場を概観できました。
- ジェンダードミノの出発点が「政治」だという荒木先生のご発言、素晴らしかったです。性差や世代差に寄り添いながら、だれにとってもフェアな社会となりますように願うばかりです。
- 日本の産業衛生の背景から制度、現状や課題、新たな取組などを女性の視点で幅広くお話しいただき感動しました。女性自らが働くモチベーションを維持して次の世代にも希望を繋げる世の中になるよう、私達ができることは何かを考えさせられました。先ずは新型コロナで翻弄された自分や周囲のレジリエンスを意識して、セルフケアができるようになりたいです。荒木さんからの応援メッセージをひしひしと感じました。
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