2023年度 第1回勉強会報告
女性に対する暴力VAW—精神科外来からの報告

2023年度 第1回勉強会報告

女性に対する暴力VAW—精神科外来からの報告

講師紹介

山田嘉則

クリニックちえのわ 医師

弁護士を目指して最初は法学部に入りましたが法律に興味が持てず、卒業したのは文学部です。大学時代に報徳会宇都宮病院事件があり、精神障害者が人として尊重されていない、と思い精神医療の世界で働こうと医学部に再入学しました。
1994年に医師免許を取得し、精神科では長期在院者の退院支援、性暴力被害者のメンタルケアなどに取り組み、精神科以外でも在宅医、緩和ケア医としても活動してきました2017年より兵庫県明石市(明石駅前)でクリニックを運営しています。これまでの経験を活かしつつ「かかりつけ精神科医」のスタンスで診療をおこなっています。

講演概要

トラウマ(心的外傷)はメンタル不全のもっとも重要な原因です。特に回復が困難なメンタル不全の背景にはたいてい、子ども時代からの積み重なるトラウマ体験があります。トラウマが注目されたのは戦争や自然災害がきっかけでした。しかし、そうした非日常的な出来事ではなく、むしろ日常の一部である人から人への暴力こそがメンタルヘルスへの影響が大きい、と現在では考えられています。その意味で、暴力は人権の問題であると同時に公衆衛生の問題でもあります。

今回私に与えられたテーマはトラウマでしたが、暴力のないところにトラウマはありません。このことを明示したい、との思いで「女性に対する暴力(Violence Against Women; VAW)」を講演のタイトルに選びました。

私たちのメンタルクリニックには多様な問題を抱えた方が訪れます。それゆえ、私たちは日々多種多様なVAWに遭遇します。クリニックを訪れる女性たちの体験する暴力は、性虐待、性犯罪、セクシュアルハラスメント、DVといった狭義の性暴力にとどまりません。たとえば本会の会員の多くが関心をお持ちの妊娠出産を巡っても、女性たちは様々な暴力にさらされ傷ついています。

講演では、クリニックで遭遇するVAWについて、仮想ケースを交えて具体的に紹介します。また、私たちが被害者・サバイバーとの関わりで心がけていることについてお話します。そしてその背景である家父長制という名のVAWがビルトインされた社会についても考えていけたらと思います。

この講演がみなさまにとって、改めてVAWについて考え、それぞれの現場で、そして市民としてできることを考えるきっかけとなることを願っています。

勉強会報告

参加した皆様のご感想
  • 久しぶりに山田先生のお話を聞かせていただきうれしかったです
  • エンパワメントの重要性を改めて感じました。被害者の継続支援はかなり長期間の話だと覚悟しました。
  • 大変示唆に富んでお話しをありがとうございました。また、構造的なお話と具体的は対応のお話しもあり感謝です。
  • 大変示唆に富むご講演であっという間でした。また、続きが聞きたいと思いました。
  • 精神科医の話=仕事に関わるウツの話ばかりでしたが、今回のように産前からある不安定、母体の不安定から繋がる子供への影響など、社会に出る前から考える不安定さをもっと広げてほしいと思いましたし、子どもの持つ回復力についても知りたいと感じました。精神科医の講演会が増えてほしいです。
  • 予想以上の内容で素晴らしかった! ありがとうございました !
    今日の発表の内容を、当事者女性の方々が医療支援地域支援を受ける時、またはそれよりも前に知っておいた方がニ次被害・病気症状・生活苦境を深刻化させずに済むのではと思いました。社会レベル・家族レベル・個人レベルの家父長制ガスライティングに気付き抜け出すための情報が広く知られるようになってほしいと思います。女性の周囲にいる人々がかける妊娠出産のプレッシャーについても改めて考えたいなと思いました。あたたかいサポートやエンパワメントというものが現実的・具体的には儚いような気もするので, 仮に当事者が家父長制の濃い環境に戻ってしまっても… 仕方ない(?) 社会なのかなとも思っています。本人のSRHRを認めてもらえないディストピアを生き抜くには、なかなか皮肉めいた選択や行動をとることがあると思いますが、生き抜くたくましさ、知恵、労力、コストを別のことに使えたら、きっと全く違う人生や日本社会があったのだろうと思います。今日の発表にエンパワメントされました。性と健康を考える会の会報でも今日の内容や続編を読みたいです。
  • 山田先生のお話が聴きたくて申込みました。分かり易く沢山の大切な事を知ることができました。悩ましい毎日ですが、諦めず、自分のポジションで、少しでも良いモデルになれるよう前向きに生きていかねばと思えました。
  • 女性への暴力は身体的、言語的だけでなく、偏見やあるべき論などの社会風潮が「暴力」になっていると思いました。妊娠、出産、子育てについても、誰の幸せのためなのか、不妊治療は特に深刻と思いました。精神科に受診する女性への温かい支援だけでなく、エンバワーメントが可能になるよう社会を変えていこうというメッセージに幅広い示唆を頂きありがとうございました。

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