当事者と医療者のギャップを乗り越える協働がHIV医療に起こした変革
-致死的疾患の本人告知からU=Uまで-

講師概要

講師

山中 京子
(大阪府立大学 名誉教授/コラボレーション実践研究所 所長)

講師プロフィール

1977年津田塾大学を卒業後、1981~1984年米国ハワイ州立ハワイ大学大学院ソーシャル・ワーク校修士過程留学し、同校にてソーシャル・ワーク修士号を取得。帰国後、神戸市民生局児童家庭課や千葉県精神保健福祉センターなどで相談員を務める。

1993~2001年:東京都医療福祉部エイズ対策室・専門相談員としてHIV陽性者の心理社会的支援に従事する。その傍ら東京都精神医学総合研究所や東京大学大学院医学系研究科にて客員研究員としてHIV陽性者への心理社会的支援の概念整理やそのシステム構築および保健・医療領域での多職種連携・協働の研究を開始する。

2001~2019年:大阪府立大学人間社会学部社会福祉学科および同大学地域保健学域教育福祉学類にて社会福祉学の研究・教育にあたる一方厚生労働科研などにより上記の研究を深める。

2019~現在:大阪府立大学を定年退職後、兵庫県芦屋市においてコラボレーション実践研究所を設立し、今までの研究成果を踏まえ研修や講演を中心に活動を行っている。

勉強会報告

HIV感染症に関するMedical gapsについて山中京子先生からお話をいただきました。山中先生は、行政の心理職の経験もおありで、HIV感染症の患者さんを含めて多くのカウンセリングに長年携わり、大学では福祉や保健医療の関係者に教鞭を取りつつ研究者としてもご活躍です。現在は大阪府立大学名誉教授であり、コラボレーション実践研究所所長として活動されています。

新型コロナウイルス感染症が流行している今、感染対策のやりすぎとも思われる注意喚起や自治体からの公表の地域差や感染者を排除するような社会的世論が危惧されていますが、それは過去にHIV医療が経験した問題と共通するところである事を述べられました。

今回のテーマであるHIV感染症の医療について、医療者と患者のgaps として次の3つを挙げられました。①不治の病に対する意識 ②有効な治療には高額な医療費が必要であること ③性行為による病(偏見差別やスティグマ) という問題は、Medical gaps として丁寧に解説いただきました。HIV/AIDSについて、Medical gapsを乗り越えるための今までの動きとしては、①医療者側の意識について「本人告知は、患者を支えることの重要性を共有するため」と方向転換されたこと。②高額の治療費について、血友病患者への和解の条件に障害者認定制度に至ったこと。③ U=U(感染限界に至る医療)について 国際的な「コンセンサス声明」によって患者の安全な性行為が人生で優先される事が支持されるようになったこと。

①については、血友病を治療するための薬剤が患者と医師を苦しめることになったことに医療者自身が耐えられずに患者の元を去っていった過去も有りました。②については、山中先生がお話の中で触れられませんでしたが、障害者認定制度の獲得には、血友病の治療による感染と性行為による感染の患者さんを「感染経路を分けずに医療費助成対象の障害者と認定する」という事が、患者間のギャップを乗り越えたこととして思い出された方もいらっしゃったのではと思います。③については、検出限界のウイルス量であれば、コンドームを使わなくてもHIVが性行為感染しない報告もあることなど、日本ではまだU=Uが当事者以外には知られていない事実であったり、感染する以前に抗ウイルス薬を飲むPrEP(プレップ)も質問で解説があり、HIV医療がこんなに進んでいるのか、という発見もあった勉強会でした。

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)H10年制定」は、かつての伝染病予防法の禍根を断つべくエイズ予防法も包括し、社会防衛にとどまらず、当事者の人権に配慮し医療につなげる事が感染症の予防につながるという理念を持っていますが、その実現には新たな感染症に向き合う度に、繰り返す課題の解決に時間をかけてきました。HIV感染症の医療におけるMedical gapsも全てが乗り越えられたものとは限らず、現在も引き続き個別の問題や新たな課題は生じています。ただし、これからもあらゆるギャップを埋めていくには、当事者からの声や力と医療者の認識の共有は時間をかけても協働していく事が重要であると、今までのHIV医療を取り巻く動きに学ぶべきところは多いと思いました。

山中先生の教え子の武子愛さん(本会副会長)の進行で、約30人の参加者とともに、質疑応答も活発に充実した2時間が過ごせました。